2008年06月25日

国土と人口が足枷になる時

最近の中国を見るにつけ、「広い国土と人口の多さは国力の源泉どころか足枷になる」と漠然と考えていたものの、その理由については確たる考えがまとまっていなかった。しかし以下のブログを読んで視界が開けた感じがした。

天の恵み 地の怒り (チャイナ・クライシス 補追1)(日比野庵)

(エントリより)
現実に生きるという意味において「道教」は実に具体的・実践的な教え。呪術、おふだ、呪言、占いから、医学、本草学などまで取り入れている。だけど、そのような現実の世の中をとにかく生きるということを、社会体制として求める場合には条件がある。

ひとつには、無為自然で生きてゆけるほどの天の恵みがあること。もうひとつは、天の恵みを皆に分け与え、かつ行き渡らせられる社会であること。

これが成り立つためには、その土地が供給できる作物や資源の限界以下の人口と、モノを独り占めしないだけの民度が要る。だけど、今の中国ではもう危うくなりつつある。


ここに出てきた「天の恵み」という言葉から、国土・人口と国力の相関についての論考してみたい。

農業とは「天の恵み」から利益を得る産業であり、国土という受け皿に落ちた「天の恵み」を人手によって収穫するものと言える。よってより多くの利益を得るためには、受け皿を大きくし、収穫の人手を多くすればよい。つまり農業を主体とする経済においては、広い国土と人口の多さは経済の大きさを示し、ひいては国力の指標となる。

その一方で、農業では「天の恵み」以上の利益は得られない。例えば農家が田畑での1年間の労働で得る現金収入の数百倍の金額を、デイトレーダーはマウスとキーボードの数時間の操作で稼ぎ出してしまう。つまり工業・サービス業は農業ほどの土地と人手をかけなくても、農業以上の稼ぎを叩きだせる。

しかしデイトレーダーが農家以上の稼ぎを生み出せるのは、パソコンが安価で買え、ネットの環境が整備され、ネットによる証券取引サービスがあり、得られた対価を確実に現金化できる各種制度―――つまり、このような「社会インフラ」があるからである。「社会インフラ」を基盤とすることで工業・サービス業は土地と人手の限界を超えた利益を生み出す。

ここで「天の恵み」と「社会インフラ」を対置して考えてみよう。

工業・サービス業の基盤が「社会インフラ」にあるように、農業の基盤である「天の恵み」は農業における「インフラ」と見なすことができる。しかし両者が決定的に違うのは、「天の恵み」が「無償のインフラ」であるのに対し、「社会インフラ」は富・資源・(人的・物的)エネルギーをかけて人為的に生成し、かつ維持しなければならないことである。

このように考えると「広い国土と人口の多さが国力の足枷になる」ことの説明がつく。つまり、工業・サービス業を主体とする経済においては、基盤となる社会インフラを人為的に生成・維持しなければならないため、国土が広くなり人口が多くなれば、インフラ整備にかかるコストもそれに応じて増大していくのである。

中国を例にしてみよう。あの広大な国土の隅々まで日本と同レベルのインフラを整備し、13億の民に対して日本と同レベルの各種サービスを提供するのに、一体どれだけの富・資源・エネルギーが必要になるか。それは今、中国が稼ぎ出している富を軽く吹き飛ばすことは、容易に想像できるだろう。

その一方、シンガポールはマレー半島の先端の狭小な国土しかもたないが、貿易に専念することで国土から得られる以上の経済規模を誇っている。狭小な国土が逆に功を奏し、得られた富を過大にインフラに再投資する必要もない。このように考えると、工業・サービス業を主体とした経済においては、それに見合った国土と人口があるように思われる。


「広い国土と人口の多さは国力の源泉」という考えは

農業社会中心の時代では真理だったかもしれない

しかし工業化社会、その後の脱工業化社会においては

広い国土と人口の多さは国力の足枷になりかねない
posted by かせっち at 21:51| Comment(2) | TrackBack(1) | 論考 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。日比野庵管理人の日比野です。

TBありがとうございました。TBは承認制にしていますので、気づくのに遅れましたことをお詫びいたします。(同一TBが3本入っていましたので1本のみ承認させていただいてますm(__)m)

さて。「工業化社会、その後の脱工業化社会においては広い国土と人口の多さは国力の足枷になりかねない」の説。納得です。私のつたない思いつきを更に深堀りしていただいたようで感謝申し上げます。

「天の恵み」と「社会インフラ」を対置して考えてみるというのは実に的確な視点かと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by 日比野 at 2008年06月25日 23:14
日比野さん:

トラックバックの件はお手数をお掛けしました。こちらからトラックバックを打ったところ、「送信失敗」と出てしまったため、数度に渡って打ち直してしまいました。seesaaのシステムでは承認制などですぐに反映されないと「送信失敗」となるのかもしれません。

本文についてですが、「足枷」について漠然としたイメージとしてしか浮かんでいなかったのが、日比野さんの「天の恵みと人口の関わり」の一節で説明の糸口が見つかりました。その意味で、こちらこそ日比野さんの示唆に感謝致します。

今後ともよろしく。
Posted by かせっち at 2008年06月26日 20:37
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